人事労務のよくある質問 FAQ
募集・採用、従業員のプライバシー
労災補償と使用者の安全配慮義務
職場における健康診断の実施について
私傷病による休職と復職について
従業員の解雇
社員に対する懲戒
労働時間問題
賃金の支払等について
労働契約の成立と変更
契約社員等の雇用管理
労働者派遣
男女雇用機会均等法について
職場における差別・いやがらせの禁止
募集・採用、従業員のプライバシー
- Q1 採用面接において労働者の思想・信条について尋ね、それに対する返答内容を考慮して採否の決定を行うことは許されますか。
- A. 許されます。三菱樹脂事件最高裁大法廷昭和48年12月12日判決がその旨を述べています。
ただし、現在のプライバシー保護法制を考慮し、労働者の募集を行う際には、採用選考時にある程度プライバシーに踏み込んだ質問がある旨明示しておくべきです。
- Q2 採用選考のプロセスのなかに健康診断を入れ、その受診結果を考慮して採用内定するか否かを決定することは許されますか。
- A. 健康診断は、特に必要のない限り、内定前には行わないようにとの行政解釈が出されています。特に必要のある場合とは、公共輸送機関の運転業務に従事させる場合、警備業務等に従事させる場合等、健康状態と安全が密接に関連する場合を指すと考えられます。
- Q2-2 採用内定後に、健康診断を受診させ、その結果によって内定取り消しをすることは許されますか。
- A. 一般的には、採用内定により労働契約が成立するので、内定取消は解雇と同視されることになります。その観点から、まず、内定通知の中に「健康診断の結果、業務に堪えないと認められた場合」などの内定取消事由が明記されていないと、解雇権濫用とされるリスクが高いと思われます。さらに重要なこととして、発見された病気がどのようなものであるか、業務遂行に対し具体的にどのような支障があるのかが厳格に問われることに注意が必要です。
- Q3 中途採用を行う際、「入社後は新卒同期相当者と同等に処遇します」とうたって広告しました。この場合、同期相当者の中位以上に格付ける必要があるのでしょうか。
- A. 同期同学歴者の実在分布内にあれば問題はなく、特別な事情がない限り、その中の中位水準に格付けする必要はありません。ただし、入社前の説明と処遇に大きな差があったケースで会社に慰謝料の支払いを命じたケースがあります。
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労災補償と使用者の安全配慮義務
- Q1 労働災害が発生した場合にどのような補償の制度が用意されているのですか。また、補償の対象となる労働災害にはどのようなものが含まれていますか。
- A. 労働基準監督署に申請して労災補償を受ける場合と、雇用主に対し民事損害賠償の請求を求める場合の二通りがあります。
労災補償に関しては、業務遂行中に災害に遭遇した場合(業務災害)だけでなく、通勤災害(単身赴任地と自宅との往復途上も含む)も補償の対象となります。
民事賠償責任は、使用者に安全配慮義務違反が認められる場合に発生しますが、任意(示談)に解決できない場合は訴訟を通じて実現することになります。
- Q2 安全配慮義務とはどのようなものでしょうか。職場における安全設備の設置、危険の除去、衛生管理、安全講習の実施のほかに行なうべきことがありますか。
- A. 労働契約法5条が安全配慮義務を規定していますが、安全配慮義務とは、判例上形成された理論であり、労働契約等の法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随的義務として当事者の一方または双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるものをいいます。その内容は、危険有害物質の除去・低減のほか、就業場所の変更、労働時間の短縮、スケジュール・シフトの調整等多岐にわたります。
なお、電通事件最高裁判決(最二小判平12.3.24 民集54-3-1155、労判779-13)は、「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行なう権限を有する者は、使用者の右注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである」と述べています。
- Q3 社員が労基署から業務上災害の認定を受けて保険給付を受けることになりました。こうした事例について、保険給付を受ける以外に、会社が民事損害賠償責任を問われるようなことがあるのでしょうか。
- A. 日本では、労災保険と民事賠償では制度の趣旨が異なるという理解の下、労災保険で填補されない損害について、労働者はさらに使用者等に対して請求することができるとされています。特に、労災保険では被災者が被った精神的苦痛に対する慰謝料が除外されていますので、この「慰謝料」と将来にわたって喪失した収入と労災保険から賄われる給付額との差額について請求が行われることが通常です。
なお、業務上の指揮監督権限を有していた者も、部下の管理に重大な落ち度があるなど、特別の事情がある場合には、部下に対し損害賠償責任を負う場合があります。
- Q4 うつ病と診断された社員が、その後自殺してしまいました。当社がその結果について責任を負わされることがあるでしょうか。
- A. いわゆるうつ病自殺についても、病気の発症と業務による心理的負荷との間に因果関係が認められ、かつ、使用者に安全配慮義務違反(業務量を適切なものに留めるよう調整する義務への違反等)が認められれば、使用者である勤務先に損害賠償責任が発生します。
- Q5 現在、脳血管障害(脳梗塞、脳出血)、心疾患(急性心筋梗塞等)が発症した場合、法定時間外労働が何時間を超えると“過重労働によるもの”と認定されることが多くなるとされているか。
- A. 業務に起因して脳血管障害(脳梗塞、脳出血等)、心疾患(急性心筋梗塞等)にかかり死亡する例のことをいわゆる「過労死」といいます。
平成13年12月12日に発出された厚労省の労災認定基準では、被災直前1か月の法定時間外労働数が100時間を超えるか、2ないし6か月平均で80時間を超える場合、過重労働と評価され、業務と発症との因果関係が強いと判断されます。
なお、上記は行政機関に対する通達ですが、裁判実務でも、使用者の注意義務違反と結果発生との因果関係を判定する際に事実上用いられています。
- Q6 高血圧症の持病のある労働者が過重労働の後に脳出血で亡くなった場合、そのような持病のあったことが考慮されて賠償額が減額されることがありますか。
- A. 高血圧症等の既往症(いわゆる持病)を指摘され、医師等から療養指示を受けていたにもかかわらず、労働者がこれに従わなかった場合には、相応の過失が考慮されることがあります(システムエンジニアの脳出血死につき本人の過失を5割としたケースとして、システムコンサルタント事件・最高裁判所第二小法廷平成12年10月13日判決 労判第791号)。
- Q6-2 過重労働後のうつ病自殺につき、本人の几帳面すぎる性格で、上司の命令もないまま長時間職場に滞留したことが疲労蓄積の原因だと推測される場合に、賠償額が減額されることがありますか。
- A. 過重労働後の自殺について、最高裁(前出・電通事件判決)は、労働者の性格(几帳面すぎる等)を考慮することは特別な事情がない限り相当ではない旨を述べています。
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職場における健康診断の実施について
- Q1 法定健康診断について、労働者本人に「医師選択の自由」は保障されていますか?
- A. 労働安全衛生法66条5項但し書きにより、法定健康診断について会社の指定する医療機関での受診を希望しない者は、法定項目について医師の診断を受け、その結果を会社に提出すればよいものとされています。
- Q2 健康診断において、労働者の同意を得ないで、HIV検査やB型肝炎ウィルス感染の有無を調べてよいのでしょうか。
- A. そのような検査の実施は労働者のプライバシーを害するものであり、不法行為(民法709条)に該当し、本人が被った精神的苦痛に対する慰謝料等の損害賠償の問題が発生します。
- Q3 健康診断の実施に関連して、事業者には法律上いかなる措置が義務付けられているのでしょうか。
- A.
・健康診断の結果の記録(安衛法66条の3)
・健康診断個人票の作成、5年間保存(同規則51条)
・健康診断の結果を労働者に遅滞なく通知すること(安衛法66条の6、同規則 51条の4)
・一般健康診断等の結果、特に健康の保持に努める必要があると認める労働者に対する医師等の保健指導を行なう努力義務(安衛法66条の7Ⅰ)
・健康診断の結果、異常所見ありと診断された労働者について、事業者は、医師の意見を聴取し(安衛法66条の4)、その結果必要があると認めるときは就業場所の変更、作業の転換等適切な措置を講ずる義務がある(安衛法66条の5)
・1か月100時間を超える法定時間外労働が認められる労働者が申し出た場合における医師による面談の実施(安衛法66条の8)
- Q4 安衛法上の健康診断とは別に、就業規則において、従業員に対し健康診断の実施が義務付けておけば、業務命令によって受診することを強制できますか。
- A. 頸肩腕症候群で長期にわたって勤務制限を受けていた労働者について、すでに相当程度症状が軽快したことが窺われたケースについて、使用者が就業規則に基づいて発した健康診断受診命令の有効性を肯定し、これに応じない労働者に対する懲戒処分も有効とした例があります(電電公社帯広電報電話局事件・最高裁昭和61年3月13日判決)。
これに対し、うつ病等の精神疾患が疑われる社員についても同様に業務命令を発しうるかは議論の余地があり、当事務所では別の方法による対応の仕方をアドバイスしております。
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私傷病による休職と復職について
- Q1 かかりつけの医師から私傷病と診断され、まる1日の就業は避け、1日4時間以上働かないよう指導された社員がおり、現在本人から当該内容での就業制限をして欲しい旨の要望が出ています。このような申入れに応じる義務はあるのでしょうか。なお、当該事業場の所定労働時間は8時間となっています。
- A. 雇用契約上、労働者は当該事業場の所定労働時間労働する義務を負っています。したがって、1日の所定労働時間に満たない債務の履行しか提供できない場合、それは債務の本旨に従ったものではないため、債権者(使用者)はその受領を拒否することができます(ただし、その病気の原因が業務に起因するものと判断される場合には、労基法により労災補償が義務づけられ、かつ、当該傷病による休業期間中は解雇することができません)。
- Q2 病気療養後、後遺障害等により以前と同様の仕事を務めることはできないが、多少軽易な仕事であれば従事可能という申し出がありました(前提として、所定労働時間をフルに稼働することは可能な状況)。このような申し出に応じなければならないでしょうか。
- A. 私傷病により、現に就労を命じられている業務を十全に務めることができない場合であっても、労働者の地位・経験、企業の業種、規模、労働者の配置の実情等に照らし、その労働者を現実的に配置することが可能と認められる仕事があり、その労働者が当該仕事への労務提供を申し出ているならば、なお債務の本旨にしたがった履行の提供があり、債権者(使用者)はその受領を拒むことはできないとした判例があります(片山組事件・最高裁判所第一小法廷平成10年4月9日判決)。
ただし、「労働者の地位・経験、企業の業種、規模、労働者の配置の実情等」が考慮されますので、適用範囲はかなり限定されるものと考えられます(次問でさらに掘り下げて考えます)。
- Q3 私傷病により休職し、休職期間満了が近づいてきている従業員がいます。本人は復職したいとの意向を示していますが、後遺症により業務遂行能力が低下しており、以前と同様に仕事ができるか疑問があります。このような労働者を復職させなければならないでしょうか。就業規則上は「復職できなければ退職とする」旨が規定されています。
- A. 原則として、後遺症の程度が重く、十分な労務提供ができないのであれば、退職扱いとしても問題はないと考えます。ただし、労働能力低下の度合いがわずかであるとか、休職期間満了から3か月程度でほぼ完治することが見込まれるなどの事情がある場合、解雇権濫用法理が類推適用され、退職扱いが無効とされる可能性があります(JR東海事件・大阪地裁平成11年10月4日判決 労働判例771号25頁)。
- Q4 メンタルの病気により休職していた社員から、「復職可能。ただし、復職後当面の間、残業、負荷のかかる労働は不可」という内容の主治医が作成した診断書が提出されました。この場合、復職を認めなければならないでしょうか。
- A. 負傷や病気による運動機能の低下であれば、回復の程度の測定は比較的容易ですが、メンタル不調は回復の程度を計りがたいという特徴があります。
また、専門家(医師)であっても、回復の見込みなしと断言することは容易ではありません。したがって、「復職可能」という診断書に沿った対応が原則となります。ただし、判例では、6か月間は軽易な作業しかできず、6か月後に完治するかどうかも不明と診断されたケースで退職扱いを相当とした例があり(独立行政法人N事件・東京地裁平成16年3月26日判決 労判876-5)、具体的な事情により結論は異なってきます。
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従業員の解雇
- Q1 業務上負傷し、あるいは病気にかかった従業員を、その療養期間中に解雇することができますか。また、産前・産後休業、育児・介護休業を請求したことを理由に従業員を解雇することができますか。
- A. 業務上の傷病により療養中の労働者や、産前産後の休暇を取得中の労働者に対する解雇はその期間中制限され(労基法19条)、これに違反して行った解雇は当然無効となります。
また、育児休業とは、原則として労働者が1歳に満たない子を養育するための休業であり、介護休業は、労働者が要介護状態にある対象家族を介護するための休業のことをいいますが、どちらについても、日雇い、一定の期間雇用者の場合や労使協定で対象外にできる一定の労働者を除き、労働者から書面による申出があった場合、事業主は休業させなければなりません(育児・介護休業法6条。ただし、休業中有給とするか無給とするかは任意)。
なお、事業主は、労働者が育児・介護休業の申出をしたこと、またはこれら休業をしたことを理由として、当該労働者に対し解雇その他の不利益取り扱いを行ってはならず(法10条、16条)、子の看護休暇(小学校就学の始期までの子を養育する労働者が、1年度につき5日を限度に取得できる休暇…法16条の2)取得についても同様の保護規定があります(法16条の4)。
- Q2 たんに「態度、仕事ぶりが気にくわない」あるいは「売上げが低迷している」という理由で社員を解雇することができるのでしょうか。
- A. 労働契約法16条により解雇権の濫用禁止が謳われているため、たんに「態度、仕事ぶりが気に食わない」程度の理由による解雇は社会通念上相当でないものとして無効とされると考えるべきです。
また、「業務成績の不良・低迷」についても、能力や的確性の欠如が著しい程度に達しており、その回復や向上の見込みがないというような事情がなければ解雇権の濫用とされるリスクが高いと考えるべきです。
- Q3 整理解雇とはどのような場合に行われる解雇のことをいうのでしょうか。また、整理解雇の権利濫用性を判断する際、どのような要素が考慮されますか。
- A. 整理解雇とは、会社の業績低迷等によって余剰人員となった労働者に対して行われる解雇のことを言います。
整理解雇については、一般に、①人員削減の必要性、②解雇回避努力義務の履践状況、③対象となる労働者の人選基準の合理性、④労働組合との協議等労働者への対応の誠実性等の要素が勘案され、その上で解雇権の濫用となるか否かが判断されます(東洋酸素事件・東京高裁昭和54年10月29日判決参照)。
- Q4 会社が退職して欲しいと考える労働者に対し、退職をはたらきかけ勧奨することは法に抵触する行為なのでしょうか。
- A. 退職勧奨とは、労働者に退職願いを出すようはたらきかける行為であり、それ自体は違法ではありません。ただし、その態様が問われます(次問参照)。
- Q5 以前行われた退職勧奨の面接時に退職する意思がないことを表明している労働者に対し、その後も執拗に退職をせまることは許されますか。
- A. 執拗な退職勧奨は違法とされ不法行為による損害賠償を命じられるリスクのある行為です(下関商業高校事件・最高裁昭和55年7月10日判決参照)。また、「退職を強要された」という事実があり、労働者がそれにより精神疾患にかかった場合、業務災害と認定されるリスクもあります。
- Q6 不祥事の責任をとる趣旨で退職届を提出した従業員がいます。しかし、翌日の朝になって、「家族と相談した結果、いま会社を辞めるべきではないとの結論に達したので昨日提出した退職届は撤回します」と言ってきました。その要求に応じなければなりませんか。
- A. 退職届の提出は退職の承認を求める行為であり、これを受理する権限を持つ者(人事部長等)が受理した段階で労働契約は終了します。労働契約終了後の撤回は法的な効力を持ちませんので、ご質問については、理論的には受理の有無によって結論が異なります。
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社員に対する懲戒
- Q1 当社の就業規則には懲戒の種類として「戒告」や「懲戒解雇」は定められていますが、「減給」の処分については定めがありません。しかし、労基法91条に「減給の制裁」という規定がありますので、これを根拠に減給処分を行おうと考えています。法的に問題はないでしょうか。
- A. 懲戒処分を行うためには、就業規則等において、下される可能性のある処分を事前に明示的に定めておかなければならないという懲戒処分の基本ルール(不文律)があります。したがって、たとえ労基法に減給処分に関する規定があったとしても、このルールに抵触してしまい、無効となります。
- Q2 遅刻する社員が多いので、「遅刻1回につき減給3万円」という処分を就業規則に定めておこうと考えています。このような対応は可能でしょうか。
- A. 労基法91条は、減給の制裁を行う場合、事案1回につき平均賃金の1日分の半額を上限とし、これを超えてはならないと定めています。したがいまして、3万円という金額が1日分平均賃金の半額を超えていれば違法となります。
- Q3 休日のマイカー運転中、自身の不注意で交通事故を起こした社員がいます。この者に対して会社が懲戒処分を行うことは可能でしょうか。
- A. 社員の私生活上の行為に使用者の懲戒権が及ぶ場面は限定されます。事故の性質、情状のほか、会社の事業・規模・経営方針、その社員の地位・職種等を総合的に判断し、会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大だと客観的に評価されなければなりません。一般的には、公共輸送機関、運輸・物流系企業等でないかぎり、懲戒処分は相当ではないとされるリスクがあります。
- Q4 不祥事を起こした社員がおり、本人のほか、本人を監督する立場にあった上司に対しても懲戒処分を行いたいと考えています。それは可能でしょうか。
- A. 部下の管理体制に不備があり、それが部下による不祥事の温床となっていたと認められる場合であれば、当然懲戒の対象となりますが、単に「連帯責任」という考え方に基づく処分だとすると問題があります。
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労働時間問題
- Q1 1日8時間を超えて労働させると労基法違反となるそうですが、そのような事態に陥ることを回避するためにはどのような手続を踏むことが必要ですか。
- A. 労基法36条が定める労使協定、あるいは非常事由がある場合に労基法33条の手続を踏むことが必要であり、これらの手続を踏まずに1週40時間、1日8時間を超えて労働させた場合には労基法違反となります。
また、協定の届出・締結は労基法違反の状態を解消する(刑事責任リスクの回避)にとどまり、本人の意思にかかわらず残業を命じる(民事リスクの回避)ためには、就業規則等において会社は残業を命じうる旨の根拠規定を設けて置かなければなりません。
- Q2 労基法が求める手続を踏まずに「1日8時間を超えて労働させてはならない」とのことですが、当社の所定労働時間はまるまる8時間となっており、現在、労働したものとみなしていない以下の時間を含めると、8時間を超えてしまいます。問題がありますか。
- A. ①作業前の準備、作業後の後始末、掃除片付け、教育研修などへの参加時間、②作業服への更衣、安全靴の着用等に要する時間、③昼休み中の電話当番
①は原則として労働時間となります(ただし、研修などについては、業務と直接的な関係がなく、かつ、参加が自由とされており不参加に対する不利益が予定されていないものについては労働時間とはなりません)。
②について、一般的な更衣は業務従事の準備に過ぎないので労働時間からは除外されます。これに対し、安全帽、安全帯(命綱)、着替えや安全靴などの着用は、義務的で、しかもそれ自体入念な作業を要する場合であればその装着に要する時間は労働時間となります。
③はいわゆる手待時間と言われるもので、実際に電話がかかってきたかいなかを問わず、待機していた時間全部が労働時間となります。したがいまして、これらの時間を含めると当日の労働時間が8時間を超えるのであれば、36協定の締結・届出と、超過時間に対する割増手当の支給が必要となります(労基法37条)。
- Q3 法定時間を超える労働について労使協定の締結が必要であり、その協定内容の限度を定めた基準があると聞きました。その基準を超えて協定することは違法とはならないのでしょうか。
- A. ご質問にかかる基準とは、「労基法36条に基づき厚生労働大臣が定める時間外労働時間の限度に関する基準」のことをいい、現在、次のように設定されています(カッコ内は変形労働時間制がとられている場合)。
1週間 15時間 (14時間)
2週間 27時間 (25時間)
4週間 43時間 (40時間)
1ヶ月 45時間 (42時間)
2ヶ月 81時間 (75時間)
3ヶ月 120時間(110時間)
1年間 360時間(320時間)
限度時間自体は法的には「目安」であり、これを超える協定を結ぶことも可能です。ただし、その場合、限度時間を超える労働に対する手当の割増率を協定の中で定めることが必要であり、かつ、限度時間を超えて労働させる必要がある場合を特定し、その際の手続も協定の中で定めておく必要があります。そのような定めを特別条項といい、特別条項のある36協定を特別条項付き協定といいます。
- Q4 当社は36協定の締結、届出を行なっていませんが、台風や地震等の非常事態が起きた場合、時間外・休日労働を命じることができますか。
- A. 労基法33条による非常事由による時間外・休日労働の制度がありますので、その活用が考えられます。
- Q5 労基法は、休日の付与に関しどのような規定を設けていますか。また、休日を付与するとは労働者をどのような状態に置くことをいうのでしょうか。
- A. 休日を付与するとは、雇用契約上、労働者に対しある日の午前0時から次の午前0時までの24時間、労働義務を入れない日を設けることをいいます。労基法35条1項は週休制の原則を規定しており、少なくとも週に1日はこのような日を設けなければなりません(ただし、4週を通じて4日の休日を設ければこの規制を受けません)。
このような、雇用契約上労働義務がない日に労働させる場合、労使協定(36協定)の締結・届出と、就業規則等における根拠規定が必要となります(Q1参照)。
- Q6 社員の中には、午前中の仕事が片付かず、事業場で設定されている昼休憩の時間を使って仕事をしている者も見受けられますが、休むことができなかった場合、労働者に別途休憩を与えなければならないのでしょうか。
- A. 業務で事業場の休憩時間帯に休めなかった以上、休憩時間帯であるか否かを問わず、現実に法所定の休憩時間(所定時間6時間以内の場合は45分、6時間を超える場合は60分の休憩時間)を終業時刻までに与えなければ労基法違反となります。
- Q7 休日労働を命じたのですが、その日の労働時間が8時間を超えた場合、割増率はいくらとなりますか。
- A. 休日労働についての割増率は、現在、35%以上とすることが義務づけられています。
休日労働については、所定労働日における労働時間の延長(25%)を上回る割増率が設定されていることから、労働が開始されてから8時間を超過したとしても、割増率は35%のままで変更はありません。ただし、午後10時以降翌午前5時までの間に労働が行われた場合は、深夜割増(25%)が加算され、割増率は35+25の60%となります。
- Q8 月間の法定時間外労働が60時間を超えてしまった社員がいます。その場合でも25%の割増賃金を支払っておけば労基法違反にはなりませんか。
- A. 平成22年4月から、中小企業を除く企業において、月間60時間を超える法定時間外労働についての割増率が50%以上に引き上げられています。
猶予される中小企業に該当するかどうかは、業種に応じた「資本金の額または出資の総額」と「常時使用する労働者の数」のいずれかが条件に該当するか否かで判断されます(なお、労働者の数は事業場単位ではなく、企業単位で判断されます)。
業種/資本金or出資金の額/常時使用する従業員数
小売業:5000万円以下/50人以下
サービス業:5000万円以下/100人以下
卸売業:1億円以下/100人以下
その他:3億円以下/300人以下
- Q9 始業時刻に1時間遅れてきた労働者について、割増賃金の支払義務が発生するのはいつの時点からとなりますか。
- A. 割増賃金支払の対象は法定労働時間超過部分につき発生しますので、1時間遅刻した場合、現実の就労の開始から8時間経過後に割増賃金支払い義務が発生するようになります。
- Q10 社員が午前半休をとり、午後から出社してきました。この場合、出社時点から8時間経過するまでは割増賃金の支払い義務はありませんか。
- A. 割増賃金支払義務は実際の労働が法定労働時間を超過した場合に発生しますので、半休をとってから出勤した場合でも、現実の就労の開始から8時間経過後に割増賃金支払い義務が発生するようになります。
- Q11 法内残業とは何ですか。
- A. 法定労働時間1日8時間、1週40時間に達しない範囲で所定労働時間が定められている場合、その差分が「法内残業」となります。この時間について割増賃金を支払わなくても労基法違反とはなりません。
- Q12 労基法37条の時間外割増賃金を支払わないと使用者に対し何らかのペナルティが課せられることがありますか。
- A. 訴訟になった場合、裁判所の裁量によりにより、最大不払い額と同額のペナルティが課せられることがあり、これを附加金といいます(労基法114条)。ただし、訴訟となった後でも、裁判所が支払いを命じる判決を出す前に支払ってしまえば裁判所は附加金の支払いを命じることはできません。
- Q13 時間外労働の有無並びにその時間数を労働者の自己申告に基づき計算することは労基法に抵触しませんか。
- A. 労基法上、労働時間数の把握を労働者の自己申告に委ねてはいけないという規制はありません。ただし、自己申告を行う場合は、
①労働者に対して適正な申告を行う(過少申告をしない)よう指導する、
②必要に応じて申告内容と実態に乖離がないか調査する、
③過少申告をさせる趣旨で残業時間の上限設定を行わないことが必要とする行政通達があります(平成13年4月6日通達)。
- Q14 当社では、30時間分の超過勤務に対する定額手当の支給を行っています。それを超えて時間外労働が行われた場合にも割増賃金を支払わなくてはいけませんか。
- A. 定額の残業手当を支給していても、労基法施行規則19条が定める方法で計算される割増賃金額との差額があれば、その支払い義務は免れません。
- Q15 1週40時間、1日8時間を超えて労働させても、その部分に対する割増賃金の支払いを要しない制度をとることは労基法上可能か。
- A. 1週40時間、1日8時間の法定労働時間を特定の週、特定の日において増やすことのできる変形労働時間制では、所定労働時間の枠を延長することができます。
また、実際の労働時間にかかわらず1日の労働時間をみなすことができる制度(事業場外労働、裁量労働に関するみなし時間制)では、みなし時間に対する賃金を支払えば足りるので、残業代支払いという問題は生じません。
- Q16 1週40時間、1日8時間規制のかからない労働者は存在しますか。「管理監督者」とはどのような労働者のことを指すのですか。
- A. 労基法41条は、農業、水産業に従事する労働者、事業の種類にかかわらず監督もしくは管理の地位にある労働者と秘密の事務に接する労働者、さらに、監視断続労働に従事する労働者について、法定労働時間規制が及ばない旨を定めています。
監督もしくは管理の地位にある労働者とは、①職務内容、②責任と権限、③勤務態様、④待遇の要素を総合考慮して、労務管理上経営者と一体的な責任を負う立場にある労働者のことをいいます。いわゆる名刺肩書きが課長以上の役職であったとしても、上述した要素から実質的に権限がないなどの場合には、管理監督者に該当せず、法定労働時間規制に服することとなり、実際の残業時間に見合った賃金を支払わなくてはなりません。
- Q17 通勤時間は労働時間には当たらないのですか。出張を命じた場合はどうなりますか?
- A. 通勤時間は業務従事の準備に過ぎないので、労働時間には当たりません。
出張の往復時間中、具体的な労働義務がなく、その間の活動が自由であれば労働時間ではありません。ただし、たとえば車中での物品監視を命じた出張や物品の運搬自体を目的としていれば、その間の出張は労働時間となります。一般的な書類・説明資料、ノートパソコン等はここにいう監視が必要な物品には該当しません。
- Q18 自宅での呼び出し待機の時間は労働時間になりますか。
- A. 自宅等任意の場所での待機であり、呼び出しから勤務開始まである程度の時間間隔が予定されているものであれば、労働時間とはなりません。これに対し警備室等での仮眠時間は交代要員がいなければ労働時間となる場合があります。
- Q19 年次有給休暇の使用につき、その使用目的をたずね、その理由から年休の利用を制限することはできますか。連続2週間の休暇申請であった場合はどうでしょうか。
- A. 労基法によって付与される年次有給休暇は、労働者が自由に使用することができる権利とされていますので、労働者から聴取した利用目的から判断してその利用を制限することはできません。
ただし、年休の使用により事業場の業務運営に重大な支障が生じるときは別の時季に利用するよう変更することができます(労基法39条4項)。連続2週間というような長期の年休使用については、代替労働者の確保が困難であることから、一般的には時季変更が可能だと考えます。
- Q20 欠勤した後になって、年休への振替を求めてきた社員がいます。年休の試用を認めなければならないのでしょうか。
- A. 年休は労働者からの事前の時季指定によって所定労働日における労働義務を免除する制度ですので、このような要求には応じる義務はありません。ただし、応じたとしても労基法には抵触しません。
- Q21 退職予定の社員から、退職日まで、使い残しの年休を一括取得したいという申請がありました。業務引継に支障が生じる可能性があるので、取得を制限したいのですが、可能でしょうか。
- A. 試用者には年休使用に対する時季変更権が与えられていますが、このケースでは時季変更したくとも、退職間際で他に取得させる日がないので、時季変更権は行使できません。その結果、認めざるを得ません。そのようなことが起きないような計画的な労務管理が必要です。
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賃金の支払等について
- Q1 住宅ローンなどの社員貸付制度利用者の毎月の返済金相当額を社員の月例給から相殺して精算することはできますか。
- A. 賃金全額払いの原則(労基法24条)との関係が問題となりますが、労使協定による控除であれば問題はありません。
- Q2 第三者が、従業員から債権を譲り受けたと主張して、本人自筆の受領に関する委任状を持参してきました。このような場合、その者に対して当該従業員の未払い給与を支払ってよいのでしょうか。
- A. 賃金はその全額を直接本人に支払わなければならないとする直接払いの原則(労基法24条)に抵触するため、もし、第三者に支払った後になって労働者本人から請求があった場合、もう一度支払わなければならないリスクがあります。
- Q3 会社の経営状態が苦しいため、就業規則に規定されている一部の手当を当面の間不支給とすることを考えています。対象となる従業員の同意を得ていれば大丈夫ですか。
- A. 従業員の同意を得ることにより、手当の支給に関して労働契約が変更されることになりますが、労働契約法12条によって、就業規則で定める労働条件に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分について無効にすると規定しているので、そのままでは従業員からの同意による合意は無効となってしまいます。よって、すみやかに就業規則を変更しなければ目的は達成できません。
- Q4 ある部署の従業員に対する賃金支給を誤ってしまい、1年近く賃金を過払いしていたことが発覚しました。このような場合、過払いした社員に対し過払い分の賃金を返還するよう求めることは可能ですか。またその方法は?
- A. 過払いしてしまった賃金は、不当利得返還請求権(民法703条)を行使することにより、返却を求めることができます。
ただし、その返済金を毎月の賃金から控除することは、賃金全額払い原則に抵触する恐れが出てきますので、賃金の支払いとは別枠で精算する対応が基本となります。
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労働契約の成立と変更
- Q1 労働契約は書面を作ることを必要とせず口頭のみで成立するのでしょうか。
- A. 労働契約法第6条は「労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する」と定めており、書面の作成を要件としていません。また契約は口頭でも成立し、必ず書面化することを要しません。
とくに、労働者派遣的な業務従事形態について、黙示の契約成立を認めた裁判例も存在します(ナブテスコ(ナブコ西神工場)事件・神戸地裁明石支部平成17年7月22日判決、センエイ事件・佐賀地裁武雄支部平成9年3月28日決定等)。
- Q2 就業規則を作成する際どのような手続が必要ですか。
- A. 事業の経営上使用者が定める職場規律や労働条件に関する規則類のことを就業規則といいます。労基法89条により常時10人以上の労働者を使用する事業場では就業規則の作成義務があります。また、就業規則か否かは表題のいかんに関わりません。就業規則本体の別冊であれば、就業規則の一部となります。
就業規則の作成、変更に当たっては、事業場ごとに労働者代表の意見を聴取した上で、所轄の労働基準監督署に届け出なければなりません。
- Q3 当社には正社員むけの就業規則はありますが、パート労働者に関する就業規則はまだ作成していません。労基法上問題はありますか。
- A. 労基法89条により常時10人以上の労働者を使用する事業場では就業規則の作成義務がありますので、パート労働者についても作成しておかないと同条違反となります。
- Q4 製品の品質管理業務に従事している部門で、製品の歩留まり低下が見られたため、上司が部下に対し残業して原因究明を命じましたが、部下はそれにしたがうことなく退社してしまいました。このような社員に懲戒処分を下すことはできますか。
- A. 時間外労働を命じる権利が就業規則に規定され、それが社員に周知されていれば、それは具体的な労働契約の内容となります。したがって、上司が適正に発した時間外労働命令を無視すれば業務命令違反となり、懲戒処分の対象となります(日立製作所武蔵工場事件平成3・11・28最高裁判決参照)
- Q5 就業規則を改定して、賃金、労働時間などの労働条件を従来よりも不利益に変更することはできますか。
- A. 就業規則変更による労働条件変更は、その変更が合理性を有する限り例外的に許されるものとされてきました(秋北バス事件・最高裁大法廷最高裁昭和43年12月25日判決等)。
その後、労働契約法は変更について労使合意を原則としつつ(8条)、9条~11条で、変更による不利益の程度、変更の必要性、変更後の労働条件の内容の相当性等を総合的に考慮して、その変更に合理性が認められれば就業規則変更による労働条件変更を可能としました。
- Q6 労働組合との労働協約(労組法14条)により、その組合に加入している従業員の労働条件を従来よりも低い水準に切り下げることはできますか?
- A. 労働協約による労働条件の変更は、組合員にとって有利な内容だけでなく、不利な内容であっても、その協約が労働組合の目的に反して結ばれるなどの特段の事情がない限り、原則として組合員を拘束するとするのが裁判実務での考え方です。
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契約社員等の雇用管理
- Q1 6か月契約を3回更新する等、有期雇用契約の反復更新を行った場合、当該労働者に対する雇い止めが許されなくなることはあるのでしょうか。
- A. 期間の定めのある雇用契約であっても、当該契約を反復更新するなどの事情から、労働者が契約更新に対する期待を持ち、その期待に一定程度の合理性が認められる場合には、更新拒絶(更新しないこと)について、権利の濫用、信義則違反が認められれば、期間満了後も従来と同様の契約があったものとみなされることがあります(日立メディコ事件・最高裁昭和61年12月4日最高裁判決 等。ただし、同判決は当該事案における雇い止めを有効と判断)。
なお、東芝柳町工場事件(最高裁昭和49.7.22)では、「上告人会社としても景気変動等の原因による労働力の過剰状態を生じない限り契約が継続することを予定していたものであって、実質において、当事者双方とも、…いずれかから格別の意思表示がなければ当然更新されるべき労働契約を締結する意思であった」「したがって、本件各労働契約は、期間の満了ごとに当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的にことならない状態で存在していた」として、当該契約の更新拒否は解雇に当たると述べています。
- Q2 期間6か月のパートタイマーとして採用され、3年目から店舗の「チーフ」となり、雇い入れから5年を経過した労働者から、「私の給料は採用時に時給900円、チーフとなったときに1000円となりましたが、その後昇給がありません。法律では正社員との均衡処遇が求められているということですが、どうなっているのでしょうか。」との質問がありました。どのように回答すればいいでしょうか。
- A. パート労働法(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律)の9条は、人材活用の範囲が正社員と一定期間同一のパート労働者について、当該期間中は賃金の決定方法を正社員のものと同一のものとするよう勤めるべき義務がある旨を定めています。
したがって、正社員が年功序列型賃金であるならば、パート労働者も同じ方式で決定することが望ましいといえます。また、パート労働法では、労働者から説明の求めがあった場合の説明義務を規定しています。そのため、上記の観点からの説明(賃金の決定方法)が必要です。
- Q3 当社では、パート労働者の正社員転換措置として、次のような制度を設けた。法的に問題はないでしょうか?
「受験資格:勤続2年以上で勤務成績良好な者」
毎年1回実施する選考に合格した者との間で契約社員の契約を結び、2年経過後に正社員登用試験を実施する。試験に合格した場合は正社員とする。また、パート法改正(平成19年)以降も正社員登用例がない場合、パート法違反に問われますか。 - A. パート社員について、契約社員を経由して正社員登用を行うことについては法に触れるものではないとされています。
また、パート労働法は、企業に対し正社員登用制度の構築を義務づけていますが、結果として正社員登用例が出ることまでは求めていません。したがって、登用された例がないからといって直ちに法違反とはなりません。
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労働者派遣
- Q1 人材派遣会社から労働者派遣を受ける場合、受け入れ可能な期間は最大何年ですか。その他、派遣法による派遣元、派遣先に対する法規制としてどのようなものがありますか。
- A. 専門26業務、有期プロジェクト、育児・介護休業取得者の代替等の場合は制限期間がありませんが、それ以外のいわゆる自由化業務は原則1年、労働者代表の意見聴取手続を経た場合に最大3年の限度で派遣労働者の受け入れが可能とされています(派遣法40条の2)。
自由化業務につき派遣期間を1年以上とする場合、派遣先事業主はまず、労働者代表に対し、派遣を受ける業務、期間・開始時期などを書面で通知し、十分な考慮期間を与えた上で意見を聴取します。その後、派遣受入期間を定めるに当たり、意見の内容などを書面に記し、当該派遣が終了してから3年間保存しなければなりません(40条の2ⅢⅣ)。
また、労働者派遣を実施するに当たり、派遣元、派遣先は、派遣契約の締結、派遣先管理者、派遣元管理者の選任、派遣管理台帳の作成等の義務を負います。
- Q2 派遣労働者に対する安全配慮義務は、派遣元、派遣先のどちらが負うのでしょうか。
- A. 派遣先が直接的な責任を負いますが、派遣元も、派遣管理台帳を通じて労働者の就労状況(とくに長時間労働による過労状態にないかなど)を把握し、問題が認められれば派遣先に改善を申し入れを行うなどの義務があります。
- Q3 他社への「出向」は、労働者派遣法に則って行われるものではありませんが、出向の形式を取れば労働者供給には当たらないのでしょうか。
- A. 出向は、労働者供給の一形態ではありますが、つぎの類型に当てはまるものは、一般に労働者供給「事業」に当たらず、職業安定法に抵触するものではないとされています(労働者派遣事業関係業務取扱要領)。
①高齢者の雇用確保のため関係会社に出向すること
②労働者本人のキャリア形成、職業能力育成のための出向
③出向先に対する経営指導、技術指導のための出向
④グループ企業内の人事交流
- Q4 当社は家電メーカーですが、それまで自社で行っていた電子部品製造業務の一部をB社に業務委託することとし、その部品製造ラインにはB社の社員が作業員として配置され、部品製造を行うようになりました。
製造委託開始当初、当社の社員がB社の作業員に対し、機械の使用法や製造方法につき指導を行ったほか、当社の社員がB社に出向し、B社責任者の肩書きで、B社作業員の指揮監督を行っています。このような実態は法に抵触しないでしょうか。 - A. 御社の社員がB社の社員に指揮命令する関係が認められれば、実態は労働者派遣であり、いわゆる偽装請負となります。ただし、業務立ち上げに当たり、必要最低限の技術指導を行ったとしても、それだけで偽装請負とされることはないと考えられます。
- Q5 適正な業務請負と認められる基準はありますか。
- A. 適正な請負と労働者派遣との区分に関する基準(昭和61年労働省告示37号)を参考にしてください。なお、請負か否かは契約の表題ではなく、実態から判断されることに注意が必要です。請負の実態がなく他社の労働者から労務提供を受ける場合、その実質は労働者派遣となりますので、いわゆる「偽装請負」の問題が発生します。
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男女雇用機会均等法について
- Q1 男女雇用機会均等法ではどのような差別が禁止されていますか。また、間接差別とはどのようなものをいうのでしょうか。
- A. 募集・採用、昇進、昇格、教育研修、福利厚生等すべての取り扱いにつき性による差別が禁止されています。
なお、間接差別とは、世帯主等直接性別に結びつく属性ではないが、一般社会通念上性別と結びつきやすい事項につき、取り扱いに差を設け、結果として一方の性に有利不利を生じさせるような差別をいいます。とくに必要がないにもかかわらず、一定の身長・体重を採用要件とすること、実際には全国転勤が行われていないのに転勤可能であることを昇進の条件とすること等がこれに当たります。
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職場における差別・いやがらせの禁止
- Q1 女性労働者の背中を触る、肩をたたくなどの行為について、セクシュアル・ハラスメントだという苦情が申し立てられています。その申立てを取り上げないと、どのような法的責任が生じますか。また、セクハラか否かの判断基準は何でしょうか。
- A. 男女雇用機会均等法は使用者に対しセクハラの発生を防止するよう努めるべき義務を課しています。セクハラ防止に向けた研修、教育をせず、また、労働者から具体的にあったセクハラの申立てを放置した場合(相談窓口を設けない、設けてあるが対応しない場合等)、これらの義務に違反することになります。
セクハラには対価型と環境型の類型があり、対応すべき義務の有無・程度は、その申告の具体性によることになります。
- Q2 いわゆるアフター5のような就業時間外に社外で行なわれたセクハラ行為について、会社がその責任を負うことがありますか。
- A. 民法715条は、従業員が「事業の執行につき」他人に加えた損害について、使用者にも賠償責任を課す規定を設けています。具体的な事情によりますが、アフター5に起きた事例でも、「事業の執行」との密接な関連性があれば使用者責任が生じる可能性があります。
- Q3 上司による部下への指導とパワー・ハラスメントはどのように区別されるのでしょうか。
- A. 必要以上に執拗な業務指導や、大声を出すなどの有形無形の嫌がらせ、人目のあるところで罵倒するなどの人格毀損行為などに至れば、外形上は業務指導であってもパワーハラスメントとされます。